株式会社ビーウェルインターナショナル
代表取締役社長
1982年、兵庫県神戸市出身。2006年、大阪市立大学在学中に株式会社ビーウェルを創業。関西を中心に就活イベントや講演会、企業とのマッチングなどを開催し、学生の就職活動を支援している。これまで約2万人の大学生と関わってきた経験を生かし、2019年、韓国で「KOREC」を設立し、日本で就職したい学生への支援を始めた。株式会社ビーウェル代表取締役社長。株式会社パンスール専務取締役。ZENオフィス株式会社取締役。
日本での就職を希望する韓国の優秀な学生を日本企業に紹介する採用支援サービスを2019年に始めてから、6年目になります。現在、利用企業は550社以上で、登録している韓国の求職者は1.5万人を超えました。内定者数は年間600人を超え、毎年2倍以上増え続けています。年間1,000人の内定者を出すのが目標です。
日本の今年の新卒大学生の就職率は98.1%で、売り手市場と言われています。学生も、かつての就職氷河期にあたる頃のような苦労をしている人は少ないでしょう。しかし、韓国では新卒の就職率が6割台という状態が、もう10年近く続いています。しかも、日本の国立大学や早稲田、慶応レベルの大学を出た学生が就職できずにいるのです。学生一人一人を見ても、ほとんどの学生が日本語や英語を上手に操り、勉強熱心で、仕事に対する意識も高いです。
私は長く、日本の学生の就職活動の支援をしてきましたが、初めて日本企業への就職を希望する韓国人学生向けのイベントに参加したときの衝撃は忘れられません。その時は採用側として参加しましたが、ほとんどの就職希望者が流ちょうな日本語を話し、英語もTOEICで800点や900点、中には満点という学生もいました。そんな優秀な学生ばかりなので、採用率もかなり高いのだろうと思いましたが、主催者に聞くと、ほとんど内定者が出ないということでした。なぜなら、日本企業は韓国人学生の能力を見抜けず、学生側も自分のアピールに必死なあまり、企業側は少し引いてしまう。互いに相手を十分に理解できていない状態だったのです。
それを聞いて、「それなら、自分たちが韓国人学生と企業をマッチングするサービスをしたらどうだろうか」と考えました。きっと、韓国人学生に日本の就職活動の方法を教え、日本企業に学生の優秀さを伝えれば、もっと採用率は上がるはずだ。それが私たちにはできると思いました。
ビジネスのスタートは、韓国のソウルに日本で就職活動をするための学校を開くことでした。この学校では、日本語の習得をサポートしたり、日本企業に関する知識を教えたりしています。また、エントリーシートの作成方法や面接の練習も行っています。韓国にはエントリーシートという応募形式がないため、応募方法から日本の企業文化、日本の就職活動で必要な知識やマナーまで、実践的な内容を教えています。
開設当初は、韓国の学生の間で大変な評判になり、SNSでかなり拡散されました。それほど日本で就職したいと考える学生が多かったのです。一方で、日本企業への就職はハードルが高いと考えられていました。しかし、学生たちが日本企業を理解すれば道が拓けることがわかり、多くの就職希望者が集まってきました。
優秀な学生が日本を目指す理由は、距離の近さです。優秀で英語が堪能な学生の中には、アメリカでの就職を目指す学生も当然多くいます。しかし、新卒で米国企業に就職しようとすると、ビザ取得に非常に厳しい審査が課されます。それに加え、韓国では儒教の精神が色濃く受け継がれており、家族を大切にする考えが一般的です。このため、「アメリカで働きたい」と言うと、「そんな遠くに行かないでほしい」と親に反対されることが少なくありません。
すると、韓国の若者も二の足を踏んでしまいます。しかし、日本なら比較的近く、韓国にすぐ帰ることができます。ですから、家族も「韓国での就職が難しいのなら、せめて日本で就職してほしい」と言うことが多いようです。そう考えると、日本の企業は韓国の優秀な学生を採用するのに、非常に有利な立場にあると言えるでしょう。
こうして事業は順調に始まりましたが、その直後にコロナ禍に見舞われ、危機的な状況に陥りました。多くの企業が新規採用を抑制しただけでなく、海外への渡航も制限されました。この状況では就職支援は困難でした。売上も95%減にまで落ち込むという厳しい状況でした。
ところが、コロナ禍には思わぬ副産物がありました。それは、オンライン面接の一般化です。それまでは「やはり面接は直接顔を合わせなければならない」といった風潮がありましたが、学生側も企業側もオンライン面接に対する心理的な抵抗がなくなりました。
そこで、2021年3月に「KORECオンライン」というWebサービスをリリースしました。もちろん、「完全オンライン採用で大丈夫なのか」「企業に掲載してもらえるのか」といった不安もありました。しかし、オンライン採用が一般化するという世の中の流れもあり、売上を伸ばすことができました。もちろん、多くの企業を回り、必死に営業をしましたが、こうした変化は大きな追い風となりました。
今後、韓国人学生の採用率を高めるには、日本企業の意識を変革することが大切だと思っています。
新卒採用の確保に悩んでいる企業に「韓国人の方はどうですか」と提案しても、「外国人採用は検討していません」と言われることが、未だに少なくありません。多くの経営者や採用担当者が、外国人を別枠採用だと考えたり、海外事業で働いてもらうものだと思い込んでいたりするのです。
ソフトバンクや楽天のように、「優秀な人材であれば国籍は問わない」という企業もあります。しかし、特に中小企業や地方の企業では、「自分たちは外国人採用とは無縁」と考える傾向が強いです。
一方で、韓国の求職者は、自分の力を発揮できる職場を求めており、勤務地へのこだわりがそれほど強いわけではありません。もちろん、大企業や東京・大阪の会社は人気です。しかし、中小企業や地方の企業にも応募者が集まらないわけではありません。実際、沖縄のIT企業では、多くの韓国人を新卒採用している例もあります。
韓国の人だから、言葉をうまく話せないのではないか、日本の職場に馴染めないのではないかといった先入観を取り払うことで、優秀な人材を確保できます。そして、海外の優秀な人材を受け入れることで、社員に刺激を与えると同時に、組織の変革にもつながります。そうしたメリットをぜひ、多くの経営者や人事担当者に知ってもらいたいです。そのために、積極的に事例紹介などの情報発信にも取り組んでいます。企業や社会の意識を変えていくことも、私たちのミッションだと思っています。
それに、最近は韓国ドラマなどの影響で、韓国に親近感を持っている人も大勢います。韓国のアイドルやスイーツ、コスメなどの話題で職場にすぐ馴染めるケースも多いです。実際に受け入れてみると、それほど問題はなく、むしろ大きなメリットが得られるはずです。
韓国での事業が軌道に乗ってきたので、2025年4月からは台湾でも韓国と同じように事業を展開しようと考えています。台湾も就職率が低迷しており、親日的な文化がある国で、日本語を勉強している人も多いです。日本での就職に関心を持つ人も多いと考えています。
ただ、韓国とは文化や仕事に対する考え方に異なる部分があり、韓国と同じやり方では成功しない場合もあるでしょう。しかし、相互理解を深めていくことで、求職者が増え、日本企業の採用も活発になっていくのではないかと思っています。
インドネシアやタイ、ベトナム、インドといった他のアジアの国々にも優秀な人材は数多くいます。そのため、そうしたエリアにも事業を拡大したいと考えています。もちろん、中国も巨大な市場であり、注目しています。
おそらく、これからはこうした優秀な人材が日本企業に就職するのが当たり前の時代になっていくでしょう。若い学生にとっては、海外の優秀な学生が就職活動のライバルになったり、会社の仲間になったりする時代が間もなくやってくると考えています。
日本の大学生はあまり勉強しないと言われますが、韓国や台湾の学生は非常に勉強熱心であり、視野を世界に向けています。だからこそ、日本の学生も現在の大学生活が当然だと考えずに、もっと知識を身につけ、視野を広げてほしいです。
これから、今よりも国境を超えた交流が盛んな「グローバルな時代」が必ず訪れます。そんな時代に、自分に何ができるのかを考えながら、貴重な若い時代を過ごしてほしいと思います。