武蔵野大学 アントレプレナーシップ学部 学部長
Musashino Valley 代表
LINEヤフー/Voicyパーソナリティ/株式会社ウェイウェイ代表
2021年に武蔵野大学アントレプレナーシップ学部(武蔵野EMC)を開設し学部長に就任。2023年6月にスタートアップスタジオ「Musashino Valley」をオープン。「次のステップ」に踏み出そうとするすべての人を支援する。また、ウェイウェイ代表として次世代リーダー開発を行う。代表作「1分で話せ」は65万部のベストセラーに。
アントレプレナーシップは、”起業家精神”だと訳されることもあります。ただ私たちはそのように捉えておりません。
私たちはアントレプレナーシップのことを「高い志と倫理観に基づき、失敗を恐れずに踏み出し新たな価値を見出し、創造していくマインド」だと定義しています。つまり起業することだけが選択肢ではないのです。
定義についてもう少し詳しく解説します。
まず、”高い志と倫理観に基づき”とは、高貴な信念に基づき「社会に貢献したい」「人々を幸せにしたい」という強い意志で責任ある行動をとる、ということを意味します。
新しいものを生みだす時は苦難の連続です。高い志がなければ乗り越えるのは難しいでしょう。
そして、”失敗を恐れずに踏み出し新たな価値を見出し、創造していくマインド”についてですが、ここは特に日本人に欠けている部分だと考えています。
新しいことをやると誰でも失敗するものです。例えば、オムレツを作ろうとして、いきなり最初からできる人はいません。失敗を何度か重ねるうちに最終的にうまくできるようになります。
このように、失敗に失敗を重ねて新たな価値を生み出していくマインドのことがアントレプレナーシップであると考えています。
日本は1990年から30年以上、経済が停滞しています。
この経済停滞を生む大きな要因のひとつにこのようなアントレプレナーシップの欠如が挙げられるのではないでしょうか。
日本人は、例えば既存の製品の性能を改善する、品質の高いサービスを提供する、といったことは得意です。しかし、世にない全くあたらしいものを生みだすというマインドは欠如しているように感じます。
このようなマインドの醸成を目指し、武蔵野大学ではアントレプレナーシップ教育に取り組んでいます。
私は学部長を務める武蔵野大学アントレプレナーシップ学部で、”アントレプレナーシップ教育”をしています。
よく勘違いされがちなのですが、アントレプレナーシップ学部は学生に対して起業を進めているわけではありません。
あくまで、先ほど話した通り「高い志と倫理観に基づき、失敗を恐れずに踏み出し、新たな価値を見出し、創造していくマインド」を育むことを目的としています。
私たちのアントレプレナーシップ教育は、3つのステップに分かれます。
まず第1ステップでは、世の中に対して知的好奇心を持ってもらうようにしています。
さまざまなカリキュラムを通して「今のままではだめだ。世の中はもっと良くなる」と考えること、それから「自分もそこに貢献できる」「貢献していきたい」という思いを持ってもらうということを目指しています。
そして2番目のステップでは、”仲間”とたくさん話してもらっています。
知的好奇心を持つだけでは、なかなかその思いは続きません。
仲間とのコミュニケーションや切磋琢磨を通じて、さまざまな思いや考え方に触れることでアントレプレナーシップがより深く育まれるものだと考えています。
そのために1年次は全員に学生寮で共に学んでいただいています。
そして3番目のステップでは、実際に”行動”をしてもらっています。
実際に手を動かすプロジェクトを通して、学生の皆様に”実践学習”をしてもらっています。
プロジェクトでは学生数名でチームを組んでもらい、どんなことに取り組むのかという企画から運営までのすべてを学生だけで取り組んでもらっています。
プロジェクトの内容は例えば、「美大生の作品をEコマースで販売するプロジェクト(小さな美術館)」や大きな話題を生んだ「新型コロナウイルスによって中止になった甲子園に出場するはずだった高校球児達に向けて、甲子園で野球大会を開くプロジェクト(あの夏を取り戻せ)」など、さまざまです。
プロジェクトを通して実際に行動・実践する中で、さまざまな失敗を重ねることになります。
このような体験を通して、新しい価値を生みだすことの難しさやスキルというものを学んで欲しいと考えています。
また、このような「知的好奇心醸成」→「仲間との対話」→「行動」という取り組みは我々の学部に限らず、すべての日本人がやるべきだと考えています。
この思いは、アントレプレナーシップ学部での取り組みを通して、確信に変わりました。
武蔵野大学アントレプレナーシップ学部で行われた実際のプロジェクト例を紹介します。
特に印象に残っているプロジェクトのひとつに「あの夏を取り戻せプロジェクト」が挙げられます。
「あの夏を取り戻せプロジェクト」は、2020年に新型コロナウイルスの感染拡大によって中止になった夏の甲子園大会に出場するはずだった高校球児たちに、もう一度甲子園の舞台でプレーする機会を提供するためのプロジェクトです。
阪神甲子園球場を貸し切り、全高校野球チーム計49校、総勢1,000名へ声をかける大規模なプロジェクトでした。例えば費用面では、全参加者の交通費だけでも7000万円以上になっています。
このような大きなプロジェクトを発起人である武蔵野大学アントレプレナーシップ学部1期生の大武優斗(夏の甲子園が中止された2020年に当時高校3年生で野球部 / )を中心に、学生や若者だけで企画・運営されました。私たち教員はときどきアドバイスや手助けをするだけであくまでサポート役です。
やはりこうしたプロジェクトを学生だけで運営すると、紆余曲折もあり、学生同士の衝突も起きます。
このように、学生同士が衝突や失敗を重ね、試行錯誤を繰り返す中で、アントレプレナーシップにおいて重要な多くのことを学ぶことができます。
「あの夏を取り戻せプロジェクト」は大きな話題を生み、これまでに400以上のメディアから取材を受けています。
最後に、人生やビジネスにおいて成功をするために何より重要なのは、”継続”と”習慣”しかないと考えています。
まずはやってみて、それを振り返る。失敗したなら改善してまたやってみる。
そしてまた振り返って、改善して、やってみる。
このようなサイクルを回せるか、重要なことはそれだけだと私は考えています。
そしてこれを何度も日々繰り返せることが大切です。
10回繰り返せるよりも15回繰り返せるほうがいいですし、15回よりも150回の方が良いでしょう。
継続的にこのサイクルを続けられるか、これが人生やビジネスにおける本質的に最も重要なことです。
そして、このような”継続”ができるかどうかという原動力に、高い志や信念というものがあるのだと考えています。