株式会社みんなの銀行 取締役頭取
永吉 健一
九州大学法学部卒。1995年、㈱福岡銀行入行。経営企画部門に在籍し、経営統合によるふくおかフィナンシャルグループ設立、その後のPMI業務に従事。2016年、企業内ベンチャーとして、新しい金融プラットフォームを提供するiBankマーケティング㈱を起業。2021年、立上げをリードしてきた日本初のデジタルバンク『みんなの銀行』がサービス開始。2022年4月より現職。自分ではできないサッカー好き。
「10年後の銀行のあるべき姿とは?」すべてはここから始まった
元々私は新卒で福岡銀行に入行した普通の銀行員でした。経営企画部で働いていた2014年頃、母体であるふくおかフィナンシャルグループ(以下FFG)の当時の社長から「10年後の銀行のあるべき姿を見据えて、今から何ができるかを考えてほしい。今の銀行の延長線上じゃなくていいから」と言われたのがすべての始まりでした。
何ができるかと言われても銀行はいわゆる規制業種。普通に考えたらできないことだらけです。ただ「今の銀行の延長線上」でなくてもいいのなら…と仲間たちと考え抜き、当時の銀行本体では決してできない機能やサービスを事業構想に織り込み、2016年にFFG初の社内ベンチャーとして誕生したのがiBankマーケティング(以下iBank)、スマホに特化したネオバンクというジャンルの金融サービス(プロダクト名は「Wallet+」)を提供する会社でした。
銀行の外に出てiBankのプロジェクトを進める中で、世の中のスピードや変化をよりダイレクトに感じるようになりました。すると今度は「銀行って本当にこのままで大丈夫なんだろうか?」「銀行そのものを大きく変えるべきなんじゃないか?」という危機感と使命感が芽生えてきたのです。iBankのサービスイン後で間もない段階でしたが、「これからの時代にフィットするデジタル起点の新しい銀行をゼロからつくる」という企画を提案しました。
そこから2年かけてFFGの経営陣を説得し、企画を磨き上げ、準備会社の設立に漕ぎつけました。柔軟なサービス提供を可能にするため、ゼロからシステムを開発し、世界で初めてGoogle Cloud上で稼働するフルクラウド型の銀行システムを構築しました。こうして18か月という異例の速さで銀行設立を完遂し、 2021年5月にみんなの銀行はサービス提供を開始しました。
7割がデジタルネイティブ世代、236万ダウンロード83万口座突破
みんなの銀行は日本初のデジタルバンクです。通帳や印鑑はもちろん、カードもなく24時間365日、口座開設も含めたすべてのサービスがスマートフォンアプリで完結します。目的別にお金を貯める「Box」や資産を一元管理できる「Record」などの機能を備え、シンプルなUI、フリクションレスな操作性、イラストやメッセージなどの仕掛けにより従来の「銀行らしさ」から脱却したSNSサービスのような親しみやすさが特長です。
それらはすべて、幼い頃からデジタルに慣れ親しんできたデジタルネイティブ世代(Z世代+ミレニアル世代の総称)に刺さる銀行をつくりたかったから。この世代は2030年には就業人口の 60% 超を占めると言われています。つまり10年後には銀行にとって主要なお客さまとなるわけです。
スマートフォンで簡単に使える「銀行らしく」ない銀行の噂は、そんなデジタルネイティブ世代の方々に、SNSなどを通じて瞬く間に広がりました。母体は地方銀行グループでありながら、全国47都道府県にお客さまを持ち、その7割が30代以下という既存の銀行の概念を打ち破る滑り出しを見せたのです。
はじめはミニマルな機能でスタートしましたが、集まったデータとお客さまの声を元に、機能やサービスをタイムリーにバージョンアップさせていきながら着々とお客さまは増え、サービス開始から2年と少しの、2023年9月末の時点で累計236万ダウンロード、83万口座を突破しました。
新しい銀行のカタチをつくる3つの柱
これまでの「銀行」をバックグラウンドとしながら、如何に「銀行らしさ」から脱却できるか?デジタルによって Re-design(再設計)、Re-define(再定義)された新しい銀行のカタチの実現を目指すデジタルバンクとして、みんなの銀行では3つの事業領域での展開を目指しています。
1つ目は個人のお客さま向けにバンキング機能を提供するB2C事業。2つ目の柱は今金融業界で注目されている「Banking as a Service」と呼ばれる新たな領域、BaaS事業で、全国の銀行に先駆けて取組んでいます。
BaaS事業とは、みんなの銀行が保有する金融機能・サービスを、APIを介してパートナー企業に提供し、その先のエンドユーザーに対して「金融」と「非金融」がシームレスに結び付いた価値提供を目指す事業です。投資や保険といった金融事業者や、エンタメや旅行、学びなど金融業界以外の事業者と協働することで、銀行だけでは実現できない暮らしに溶け込んだ「価値あるつながり」の構築を始めています。
3つ目の柱は、みんなの銀行を支える銀行システムを国内外の金融機関や新たに銀行サービスの導入を目指す非金融事業者に向けて提供するバンキングシステム提供事業です。
国民のほとんどが銀行口座を持っている日本とは違い、世界には銀行口座を持てない人が大勢いる国があり、デジタルやスマホ起点で新しい銀行をつくりたいというニーズが多くあります。世界的に見ても珍しいフルクラウド型でつくられた次世代の銀行システムは国内外の金融業界でもインパクトをもって捉えられています。
銀行業界のスタートアップとして常に新しい挑戦を
みんなの銀行は、150年の歴史を持つ銀行業界では最後発の銀行の一つなので、顧客や資産もゼロからのスタートでした。また、地方銀行グループ発で、デジタルバンクとして全国展開する新しいスタイルの銀行なのでスタート当初は知名度もありません。
巨大なタンカーに例えられる既存の銀行と比べると、小さなボートのような存在で地方から全国に打って出る訳なので、誰もが懐疑的な目でみています。
だからこそ、これまでにない新しい金融サービスのカタチを実現することができたらどうなるだろうと思うと、ワクワクが止まりません。
法定通貨(=日本円)以外のものがお金と同じように価値を持つようになってきた昨今、個人の能力や様々な行動もデータ化されて価値を持つ未来がいずれやってくると考えています。「みんなに価値あるつながりを。」をミッションに、銀行の役割を再定義した新しい銀行として、法定通貨に限らず「価値あるもの」をデジタルでつなげていく、従来の「金融仲介業」から「価値仲介業」へのパラダイムシフトすることを目指して、
小→大へ、地方→全国へ、日本→世界へ、銀行業界のスタートアップと呼ばれるに相応しい挑戦をこれからも続けていきます。